「第41回東西珠算懇談会」を開催

特別講演とパネルトーク

"21世紀を拓く"
改革の方向性とその対応


東西懇談会

 去る8月19日(日)、静岡県浜松市内において、関東、東海、近畿の3地区の珠算関係者約150人が出席し、「第41回東西珠算懇談会」(幹事=日本珠算連盟名古屋支部)が開催された。初めに、名古屋商工会議所専務理事・日本珠算連盟名古屋支部長の工藤尚武氏から開会の挨拶が行われ、"日商では、21世紀以降も、珠算が末永く残っていくよう制度改革に取り組み、既に14年度からの制度変更を機関決定している。珠算界においても一丸となって珠算の魅力と効用を幅広く社会に伝え、次代への継承を実現していくことが珠算教育に携わるものの使命ではないかと考える"と語り、珠算人の奮起を促した。 引き続き、第1部特別講演として、浜松商工会議所議員(潟Tカエ取締役社長)・神谷竹彦氏から、「企業経営における改革の視点」と題した講演が行われた。講演要旨は次のとおり。


    第1部 特別講演
    「企業経営における改革の視点」
         講師:浜松商工会議所議員・神谷竹彦氏(潟Tカエ取締役社長)

 本日は、今回のテーマである"改革"をキーワードに、自分自身が携わってきた企業経営の中での経験をお伝えし、皆様方に何かつかみとっていただければ幸いかと思う。私もそろばん塾に通った時期もあるが、自分の頭の中で、数字を足したり引いたりする時に、何か子供の頃に習ったそろばんの記憶が潜在的に残っている。これがそろばん教育の大切な部分であり、日本人の数字に対する強さとなって表れてきているのではないかと感じる。日本では九九しかないが、インドでは教育の中で19×19までの掛け算を暗記させている。ゼロを発見したのがインド人であったように、インド人の数字に対する強さは世界的にも知られているが、シンガポールに旅行した際に、あるデパートのレジにいた人は、すべてがインド人だった。数字の強さがインド人の高い評価につながっているという事だ。

 商工会議所は珠算連盟と関係が深いが、商工会議所の中には青年部という組織もある。私は、平成4年度に全国商工会議所青年部連合会の会長を経験し、副会長の時代も合わせると全国を北は北海道から、九州沖縄まで3周くらいした。この経験が、自分自身の人生の中で大きな糧となり、今日の会社経営の中でも大いに役立っている。私の会社は、機械器具卸売業。モーターとかコンプレッサーとか、あるものを生産するための材料が私たちの商品であって、現在、浜松を中心に近在の沼津、静岡、豊橋に営業所を構え、社員75名程度、年商50億円、経常利益1.5億円位の商いをしている。浜松市などの遠州地域は、歴史的には江戸時代から織物の産地であり、時代の流れの中で豊田、スズキ、本田、ヤマハなど有名企業が立地するようになっている。このため工業製品の出荷が多い地域で、工業製品関連業界の成長とともに、当社も成長をしてきている。こうした私を取り巻く環境は、恵まれたものがあり、その中で生かされて今日まで仕事を続けてきた。

・・如何にして生き残っていくか・・

 改革ということで、私が常々会社の中で考えているのは、厳しい競争の中で、如何にして生き残っていくかということ。常に、このことだけを考えている。父親から受けついた会社を、私の子供に引き継いでいかなければならない。75名の社員のことも考えていかなければならない。会社経営も、価格革命の中で、年々営業も厳しくなってきている。しかしながら、そういう中でも、私は会社の長として勝ち残っていかなければならないということを肝に銘じている。勝ち残るということはどういうことなのか。会社で一番パワーを持っているのは社長です。皆様も、それぞれに塾・教室を経営しているわけですが、パワーというのは、人、物、金を使う権力をもっているということ。それは、皆様方自身ではないかと思う。そのパワーをもっている自分の能力が欠けてくると、経営はおかしくなる。

 会社の中で大切なのは、商品であり、商品を売るお客様、商品を売っていくための社員。この3つのバランスの中で、どう経営していくべきかを常々考えている。そうした中で、やはり自分自身の夢、会社をどのようなものにしていくのかを考えていくことが、最も大切なことだと思う。私の数字的な夢は、100億円の売上で、5億円の経常利益がでるような会社にしたいということ。今の50億円の売上を100億円にするためには、自分のやり方の中で模索をしていくことになるが、ここでは、そのための心の問題を、お手元にお配りした「野いちご宣言」という資料でお話ししたい。当社が、最近50周年を迎えた折に、私自身にとって一番大事なものは何かといろいろ悩んで考え、一緒に働く仲間であると考えるに至った。野いちごの一粒一粒のように、さまざまな個性をもつ社員の一人一人の成長に期待をして考えた。ここで、その一文をご紹介したい。

・・野いちご宣言・・

私達は、個性と主体性を重んじ、決して組織の中に埋もれることも甘えることもなく、一人一人が野いちごの一粒のように、それぞれが目的と成長点を持った、みずみずしい仲間として集い合い、そして野いちごのように、お互いの成長によって影響しあいながら、サカエを通して次の目的を達成しようとするものです。家族のために、夢ある野いちごの一粒になろう、お客様のために、役立つ野いちごの一粒になろう、社会のために、価値ある野いちごの一粒になろう。野いちごは、たくさんの小さな粒が寄り集まって成り立っていて、またその一粒一粒が完結した成長体としての能力を備えています。社員の数と同じ視点と成長点とを持った個性的でみずみずしい企業でありつづけようとする私たちの意志を象徴するとともに、野いちごのように、自らの充実が他の生命の繁栄につながり、やがて野に還って再び目を葺き始めるように、お役立ちを繰り返す度に成長して、新たな環境に適応したさらに大きなお役立ちを目指す私達の理念の象徴です。

なぜ、こういった宣言を作ったのかというと、会社も75名もの規模になると、私より年上の人間もいるし、私より年下の人間もいる。こうした中で、私の考えをどのように全社員に伝えていこうかと考えたわけです。社訓や理念は、もちろん外に対して経営哲学を伝えようとするものでもあるが、実際には、自分自身が本来忘れてはいけないことを、常に強く持っていたいものだと考える。いろいろある中で、一番大事なことは、何かするときに、自分自身へのこだわりと意思を強くもっているためのものでもある。私は、30代の時に教えられた「意識は行動を造り、行動は習慣を造り、習慣は運命を造る」という言葉を大切にしている。改革も、自分自身が実行すると思わなければ、何もできない。まず、何かをしたいと言う意識と意思を持つ事である。自分自身で、いろいろなアドバルーンをあげ、自ら意識を高め、行動し継続することだ。自分自身の原点は、そうした気持ちの中にある。平成のバブルが弾けたあと経営が苦しくなって、経営に自信をなくした時があった。そんな時に始めたのが会社のトイレ掃除。毎日ではなく、土曜日とか日曜日の休みのときに、社員に気づかれない様にやっている。これは、自分自身を鍛え、いじめながら、気持ちを奮い立たせたり、やる気を持続するために続けているもので、同時に、陰ながらやっていることを誇りにも感じている。
もう一つ、自分自身の中で、会社の中で、また商工会議所の組織の中で、3つの大切な事がある。それは、"よそ者、ばか者、若者"である。

・・よそ者、若者、ばか者・・

 ひとつの組織の中にいると、決して間違っていると思ってやっている訳ではないので、自分はこれでいい・・と、つい保守的な考え方になってしまう。そうすると、客観的な見方ができなくなってしまう。例えば、浜松市を良くしようというような会議に出席したときに、浜松市以外の方(=よそ者)の発言は大変参考になることが多い。そういった意味で、よそから来た人の意見、よそから見た切り口を大切にしていきたい。
"若者"とは、行動力ということである。自分の目で見、自分の耳で聞くと言う行動力が大事だという意味での、若者。最後は、"ばか者"である。このばか者は、私の会社にもいる。本当に、我を忘れて仕事に一生懸命取り組んでいる。そんな気持ちではないのだけれど、つい我を忘れて頑張っている。こうしたばか者の情熱が大切だと思っている。


 第2部 パネル・トーク

「子供たちに希望を与え、自信を創造する教育」

 引き続き、第2部パネルトーク「子供たちに希望を与え、自信を創造する教育」に先立ち、日本商工会議所常務理事・日本珠算連盟副会長の篠原徹氏から基調講演が行われた。講演要旨は次のとおり。

    基調講演>
    日本商工会議所常務理事・日本珠算連盟副会長  篠原 徹 氏

 珠算のもつ過去、現在、未来の大きな流れをお話したい。先頃、神戸で開催された国際珠算競技大会で韓国、台湾の方々から伺った話をご紹介する。今回、韓国からは、5人の代表選手が参加し、そのうち2人は、40歳を超えている家庭の主婦だった。結果として、このうち1人は第6位の成績。この人は、22歳の時に、名人11段をとって、翌年、家庭に入った方で、現在まで、ソロバンは一切触っていなかったという。聞いたところでは、珠算界が崩壊したと言われている韓国では、珠算塾がなくなってしまい、ソロバンも製造されていないという。珠算人口に至っては、700名程度ではないかといっていた。珠算界が壊滅状態となっているこの現状では、日本、台湾と互角に戦える選手はいなくなっているということで、この主婦が参加をしたという。韓国チームのリーダーの方は、これからは"そろばん"ではなく、計算道具を使わずに計算能力を高めていく"計算教育"を如何に展開していくかが課題だと言っている。
 台湾では、"そろばん"教育が、一般社会から高い評価を受けている。珠算人口も20万人以上いるという。台湾の人口は日本の数分の一ということで、日本に引きなおせば100万以上の珠算人口となる。検定試験は、珠算と心算(=暗算)の2種で、珠算検定の受験者は全体の3割、これに対して心算(=暗算)検定は7割を占めているという。台湾では、日本に先立つこと数年前に、既に、社会環境の変化に合わせて、改革を実行したという。検定種目としての伝票算もないと聞いている。これらの話は、必ずしも正確な情報ではないが、日本の珠算界にとって、大変参考になる台湾事情だと考える。
 珠算教育の改革の基本は、日商の特別委員会提言の中にある。先程の特別講演で、神谷社長も、新しい視点からの社業発展について語られていた。日商も中小企業を対象にいろいろな事業をやっているが、政府においても第2創業という言葉を使い始めている。
 親の良いところは引き継ぐが、自分なりに新しい創意工夫をして事業を継続する。日商・日珠連における改革による新しい珠算検定は、来年4月からスタートする。これからは、わが国珠算界は、第2創業の時代に入っていく。新しい検定、新しい組織が出来る。新しい土俵の中で、成功を目指して活動するのは皆様方自身だという覚悟をする必要がある。今、小泉政権の改革は、自助・自立の精神を基盤にしている。やる気のある人達が、よりよく活動できるような環境が着々と造られつつある。われわれ珠算人も、そういう中で、過去の栄光を忘れて、新しい第2創業を目指すべきだ。珠算人を巡る環境は厳しい・・という話をよく聞く。見方をかえれば大きなビジネスチャンスがあると考えるべきだ。日商では、国の教育改革問題との関連で、全国の会議所会頭にアンケート調査を行ったが、大多数の会頭は、若い人達の計算基礎能力の欠如を愁いている。他方、社会人として、人を採用する立場の経営者の視点からは、数的能力をもっている若者を世の中に出して欲しいと願っている。但し、珠算が全てということではない、そろばんは、数的感覚を養うための一助としての教育だということを理解しなくてはいけない。
 先程の講演で、よそ者、若者、ばか者、という話があったが、よそ者の意見に良く耳を傾ける必要が有る。同時に、若い珠算人の力を十分に活用することも考えなければならない。これからの日本人の数的能力を養うために、珠算・暗算検定以外に、新たに「計算能力検定」(仮称)も開発していきたい。我々の目指すところは、新たな計算検定の開発も行いながら、如何にして珠算教育の底辺を広げていくかということだ。これが、社会のニーズに応えていくという事ではないだろうか。そうした観点から、商工会議所も珠算連盟のお手伝いをしているが、その一つが、特別委員会の提言にもうたわれていたように、珠算の効用の科学的実証研究である。現在、特別委員会の座長を務めていただいた京都大学の上野教授に学術組織の立ち上げを準備していただいている。そういったよそ者の力も得ながら、珠算界も、世の中の流れにそった第2創業を実現していっていただきたい。

<パネル・トーク>

 この後、日本珠算連盟名古屋支部副理事長・栗田愛治氏をコーディネータに、3名のパネリスト(日本珠算連盟副会長・浅野 寿氏、同競技部会部長代行・上川裕司氏、同経営部会副部長・草柳康子氏)によりパネルトークが行われた。以下、パネラーの発言のポイントをご紹介する。

日本珠算連盟副会長・浅野 寿氏

 子供の教育は、未来の新しい価値の創造にある。今までの珠算教育にこういう視点があったのだろうか。今回の改革は、珠算人口の増加を願って行うわけであるが、日珠連の1〜3級の受験者は、昭和56年は139万人であったものが、平成12年には18万3000人。急速に変貌する社会の中で、珠算教育も例外なく変化を求められている。珠算検定は、職能教育として造られてきたが、今は、そうではない。競技もまさに、同じ。計算用具としての評価に目を向けるばかりに、人間を造りだすという視点が欠けてきた。技術の習得から、人間の知識・知恵を育むものに替えていかなければならない。改革を進めると言っても、授業のやり方、形態は余り変わらないが、問題は、ソロバンの先生が失っている自信をどのように取り戻すかではないだろうか。自らが、自信をもって授業をやらないと、子供の目から見て魅力ある授業にならない。暗算を全然教えていない先生もいる。計算力の養成と言う付加価値をつけた授業をやっていかなればならない。3種目一括施行になった場合でも、塾内の教育では、平均的に計算能力を高めるよう努めていくことが必要だ。現在、岐阜県内の連盟組織は14。このうち7つが10名以下の連盟とっている。連盟組織の弱体化が進んでいる。組織の強化のためには、やはり財政力をつけることであり、そのためには、現在研究が始まっている"計算能力検定"を、漢字検定のように、一般の方達を巻き込んで広く実施できるような制度としていくことが必要だ。検定改革について、始めは珠算関係者の中に驚きと衝撃が走ったが、繰り返し説明をしているうちに、現在珠算界が置かれている状況に理解を得られつつある。改革が実行される以上、珠算界のために、全珠算人が力を結集して協力していくべきだ。

日本珠算連盟競技部会部長代行・上川裕司氏

 かつて、ワープロが誕生したとき、これほどの普及は誰も予測できなかった。時代の変化を正確に読み取り、改革を実行していかないと珠算界は生き残って行けない。教材も、指導ノウハウも、生徒の意識が変わっていく中で、変わっていかなければならない。頑張っている先生方は、いろんな研修会にも、競技会にも参加している。もう一つは先生方自身に研究が足りない。同じように教えても暗算がすぐ出来る子。駄目な子。何が悪いのか、そういった研究がたりない。我々が何のために競技会を行っているのか、そろばんを社会にもっと押し出していくためにやっている。競技に参加する子供達にも、なぜ競技をやるのかを認識させながら進めていかなければならない。改革については、決まった以上、組織を挙げて推進していかなければならない。組織は空気のような存在。もしこれがなくなったら大変なことになる。広島県支部も、会員減とともに財政も厳しいが運営の努力しなくてはならない。支部の力が弱くなると、本部の力も弱くなる。検定改革についても、変えて欲しくないという声がある中で実行されたが、ソロバン教育の目的が変質をしてきている以上、検定制度も変わらなくてはならない。当然、競技も、検定の延長で考えていかなければならない。日珠連競技部会では、日本一を決める競技会を実施していくが、それが目的ではなく、珠算教育の素晴らしさを世の中にもっと知ってもらうということを一義的に考えている。

日本珠算連盟経営部会副部長・草柳康子氏

 昨年8月末に日商の特別委員会から、珠算教育のあり方に関する提言が出され、その後、9月末の日珠連総会で、改革の方向性が決定、更に3カ月後の昨年12月には、改革理念と改革事項が示された。短期間での集中した検討には敬意を表するものの、検討作業が性急でありすぎたことには未だ不満も残っている。しかしながら、既に実行の段階となっており、珠算界としては、全力を挙げて実行していかなければならない。これからは、ソロバン教育の本来の原点に戻すことが必要不可欠だ。そろばんを習っている生徒達の学習態度や能力、そろばん学習の効能などを、専門分野の方に科学的に分析・証明していただき、学校、社会に訴えていくしか方法はない。日珠連の改革内容で塾の形態を変更しなければならない事態にはならない。変化があるとすれば、検定試験の内容変化によるものだけだと思う。そろばん教育の目指すものは何かということだが、私達は、過去の流れを受け継いできただけであって、本当に努力をしてきたのだろうか。検定改革の前に耳にしたのは、他団体との検定との比較、難しくてなかなか合格できないから易しくしてほしいという声もよく耳にした。それでは、競技の選手を育てている先生は、どうして短時間で、あれだけの生徒をつくり上げてしまうのだろうか。子供たちの心を上手につかんで、得意分野を伸ばしているのだと思う。珠算の教育者にももう一度研修が必要だと思う。競技の先生方のノウハウを若い珠算人に教え、短時間で習得する珠算・暗算教育を実現していくことも必要だ。


  <総括> 日本珠算連盟副会長・八文字敏弘氏

 珠算検定の推移と現状を見ると、日珠連創立30年を経過した今から20年前、珠算検定受験者はピークを迎えた。戦後の珠算界を総括すると、ピークから現在まで20年が経過している。現在は、中小企業のみならず、大企業でも対応が遅れると即倒産という厳しい時代となっている。教育界を見ると、幼稚園も保育時間延長、大学でも30%が定員割れとなっている。日珠連では過去3回、組織・財政改革を実施している。現在の日珠連組織も、厳しい財務内容の中で何とかやりくりしている状況にある。韓国珠算界においては、日本の珠算界より5年も前に珠算界壊滅の前提となったあらゆる事象がおきている。日珠連がそうならないためには、極めて限られた時間しか残されていない。今ここで、珠算界がのんびりしていると、珠算教育は自然消滅してしまう。日珠連の我々は、日商の特別委員会提言の趣旨を改めて理解・認識し、改革の着実な実行に全勢力を注ぎ、新しい日珠連を創造していかなければならない。組織改革は、本部組織のスリム化、意思決定のスピード化を目指し、2002年度より実施することになっている。今は、21世紀に珠算界をどのような方向にもっていくのか正念場である。最後に、この改革を成功に結びつけるために全珠算人の意識改革が必要であることを改めて申し上げておきたい。


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