「第40回東西珠算懇談会」を開催

珠算復権のため
珠算界に何が求められているのか
基調講演とパネルトーク

  去る8月20日(日)、京都市内の都ホテルにおいて、関東、東海、近畿の3地区の珠算関係者約220人が出席し、「第40回東西珠算懇談会」(幹事=大阪珠算協会)が開催された。基調講演では、初めに大阪商工会議所専務理事・大阪珠算協会会長の大野隆夫氏から「現代社会における珠算」をテーマに話しを聴いた。氏は "大きな時代の転換期にある今だからこそ、気力を振り絞って、ソロバンの復権に力を尽くしていきたい"と強調。引き続き講演した日本珠算連盟副会長・日本商工会議所常務理事の篠原徹氏は「珠算界が抱える課題」をテーマに講演を行い、"会議所の検定試験も、時代変化を踏まえて抜本的に変えていく方向。日珠連も時代変化にあわせて自己変革に取り組むべき"と課題克服に向けたメッセージを送っていた。第2部のパネルトークでは、5人のパネリストにより、珠算復権のために何を実践すべきなのか熱心な議論が展開された。


<第1部>基調講演(要旨)

◇「現代社会における珠算」
    大阪商工会議所専務理事・大阪珠算協会会長 大野隆夫氏

  技術進歩に伴うソロバンの衰退という事実に、誰も疑問を持たない。最近、暗算学習が人間の能力に与える効用が認められつつあるが、まだ、社会一般に共有されているとはいえない。
これからのわれわれの課題は、新しい珠算の意義を、社会一般が共有するようにすることだ。学習指導要領に、ソロバンを使って・・・というのがかかれていても、現場の先生方がソロバンの体験を持たない人が多くなっている。自分が体験をしないことに意義を見出すのは難しい。そこで、ひとつには、学校の先生方に、ソロバン導入による教育的効果は高いという評価をしてもらうことが必要。もうひとつは父兄。ソロバンの経験がある父兄の子供達が、ソロバンをやっているケースが多いことにも着目するべきだ。しかしながら、父兄の珠算経験者の比率も、年とともに下がっている。最後に、学問的レベルでの評価を高めるため、珠算界に身をおくものが、そうした研究を促進することを背景として、一般の方々にやさしく理解してもらい、先生方に実践してもらう。ソロバンの効用を、実用のものとしてとらえ、過去のものといった短絡的な意見に対しては、新しい意義に適応した指導方法を研究してほしい。
  現在は、ピラミッドの頂点にある超人的能力の育成を目指して教育している感がある。その意義は認めるものの、今後、ごくありふれた人間の能力向上に意義を見出そうとするならば、それを広く普及させるような新しい珠算競技方法を開発していきたい。バックボーン的な意義は、学校の先生などに研究をしていただくような働きかけを大阪珠算協会としても考えていきたい。
  初等・中等教育界にも、そうした研究成果を踏まえて、ソロバンの必要性を訴えていく必要がある。当連盟では、外国人を対象にした珠算教室を開催してきている。参加者は、異口同音に、ソロバンという文化に傾倒している。このことは、ソロバンがもつ普遍的な意味を示しているのではなだろうか。大きな時代の転換期にある今だからこそ、気力を振り絞って、ソロバンの復権に力を尽くしていきたい。そろばんの文化的価値についても、訴え続けていきたい。

◇「珠算界が抱える課題」
   日本商工会議所常務理事・日本珠算連盟副会長・篠原徹氏

  日本商工会議所では本年3月から、珠算界の先生方や学識者などによる「珠算教育のあり方に関する特別委員会」を設置し、8月末に開催する委員会で最終報告をとりまとめることになっている。本日は、この特別委員会での論議を踏まえながら、将来の方向性、会議所としての姿勢など基本的な話をさせていただく。珠算の意義、社会的効用については、職業能力としてのソロバンは終わったというのが現状認識である。珠算受験者数(1級〜3級)は、昭和56年の139万人がピーク。その7割が小学生。3割は中・高・社会人。これが11年度に至っては、20万人台にまで減少し、9割が小学生となっている。研究会では、技術、職業能力としてのソロバンの意義は終わったというところから議論が始まった。小学生の脳の発達段階で、珠算は、大脳性理学上からは大いに意義があることが分かっており、これからは、特に小学生を中心とした数的能力、概算能力の育成、高齢者の脳の活性化などに、社会的意義を見出していくことになる。
  珠算界を取り巻く状況は、決して甘くはない。検定受験者は毎年減少を続け、事業という側面からみれば成り立たなくなってきているが、会議所としては、文化的、伝統等の視点から引き続き振興していくべきであると考えている。日珠連は、この7月、全国約6,300の会員を対象に、現状調査を実施した。それによると、後継者のいる会員は2割弱。残り8割強は後継者なしなど、相当厳しい状況が浮き彫りになっている。これからの課題を考える場合、これまでの珠算検定や日珠連の事業の原点は何か、これからはどうなのか、ということを十分見つめなおす必要がある。現在までの珠算教育の視点は、社会人の能力養成、会議所の立場から見れば職業人教育であった。これからは、子供の教育、高齢者対策などに軸足が移っていく。
  私は、珠算界の将来を楽観的に見ている。将来に亘っての存在意義を確保するために何をすべきなのか?珠算業界の未来は、洋々と広がっていくと信じている。そうした未来を実現するためには、厳しい現実を見据え、大変な努力を傾注する必要がある。もちろん、そのために必要な支援は、日商も各地会議所も惜しむものではない。皆様方には財産がある、珠算教育に関するノウハウはもちろん、物的にも教室というインフラがある。先生方には、将来に亘って、ソロバンの灯を消さないためにも、有形・無形の財産を活用していただき、経営面での基盤を強固なものに確立していただく必要がある。
  今回の特別委員会の中で、委員長である京都大学の上野教授は"ソロバンの効能を学問的に社会的に再評価させることが必要だ"と述べておられます。珠算界には、個々の先生がたの研究成果を発表していく場、学会がない。こうした課題にも取り組んでいくことが必要だ。会議所の検定試験も、時代変化を踏まえて抜本的に変えていく方向で議論をはじめている。新しい珠算のあり方を踏まえて、日珠連の組織のあり方も検討していく。例えば、単位連盟という単位が良いのか、もっと広域的な組織構成にしていくべきではないのか、意思決定の仕組みがこれでよいのか、等々。問題は、時間との勝負だ。2年、3年、4年かけてやれば良いという問題ではない。時代変化にあわせた自己改革が必要である。

<第2部>パネル・トーク


小林睦郎氏

小西繁氏

藤本トモエ氏

村田弘道氏

田村一夫氏


  「珠算復権の可能性と具体的手順」をテーマとした第2部のパネルトークには、パネリストとしてフリーアナウンサー・小林睦郎氏、大阪府小・中学校教育研究会・小西繁事務局長、トモエ算盤(株)・藤本トモエ社長、(株)彩感・村田弘道社長、(社)大阪珠算協会・田村一夫副会長の5名が出席。大阪珠算協会・森友副会長の進行で進められ、21世紀に向けた珠算復権のための対応策などについて熱のこもった討論が行われた。
 以下は、先生方の発言のポイントを整理したもの。

進行(森友副会長)

1.フリー・アナウンサー 小林睦郎氏

  私の弟は、高校で美術の教師をしている。美術は主要5教科でないところに位置付けられていることもあり、彼は、表現のプロセスがわかってもらえないといらついている。珠算の世界も、まさに、そういう位置付けにある。早く計算しようという視点から珠算をみれば、既に電卓やコンピュータにとって代わられている。しかし、私は、珠算はすごく良いものだと思っているし、習わせてくれた親に感謝もしている。珠算は、学問の裏づけをしっかりもって、世間の認知を高めるべきだ。自分自身が両親からソロバンと書道にいけといわれた理由は、多分、落ち着きのない子供だったが故かなと思っている。つまり、計算機としての珠算、字を書くだけの習字、ではなく、それをしている状況が、ものすごく大事だということ。珠算をすることで、人格が形成されていく、そんな"珠算道"みたいなところまでいけば良いのではと思う。
  ラジオの世界では、テレビが登場した時や、FM放送が登場した時には、その存続が心配された。中にいる自分達が、その存続を信じて努力してきた結果、今がある。皆さん方は、本当にソロバンの未来を信じていますか、自分が好きで信じていないとだめだと思う。勝ち戦をするためには、きっちりしたデータをもちながら、進んでいくことが必要だ。
  MKタクシーの広報戦略に見られるような、マスコミに仕掛けていくという積極的な対応が必要で、これはもすごく重要なことである。そのためには、世の中の人がびっくりするような企画を用意したり、自らマスコミに売り込みにいくことだ。もちろん、メディアはテレビだけでなく、ラジオも雑誌もある。

2.大阪府小・中学校教育研究会事務局長 小西 繁氏

  戦後の学習指導要領をみると、昭和22年の指導要領は、3年間指導。43年の要領は、3年生から。現行(平成元年)のものは、3年、4年で2学年。平成10年の12月に出された14年からの要領では、3年生だけになってしまう。こう見ると、珠算は、学習指導要領の中では、しりすぼみになっているような危惧をもつ。しかし、指導要領をつぶさにみてみると、"そろばん"について、4年生以降も、数の観念を教えるための学習具として考えると書いてある。暗算については、従来は3年生だけとなっていたのが、3年生、4年生に亘ってかかれている。ソロバンには、計算機としての機能と学習具としての機能がある。後者の機能は、特に算数教育の中で、もっと見直していくべきだ。
  算数教育は、自力解決学習に変えていかなければならない。自分の力で考えるのが大事。今回の要領では、生きる力を身につけるというのが目玉だ。算数においても、自分で解決しようとすれば道具がいる。2002年からの学習指導要領の実施にあたり、そろばんに学習具としての価値をもたせて、考える道具にするということを提案していったらどうだろう。週3時間の総合的時間をどう使うかが、各学校の先生方の最大の関心事だ。また、日本ではやや軽く扱われていた"国際理解"の促進のために、総合学習の時間にわが国の文化であるソロバンを取り上げ、わが国の国際理解に役立てたらどうか。
  世論を喚起するには、テレビとインターネットの活用を考えるべきだ。今後、そういうことを現場の先生にアンケートをとるなどして、充実させることが必要。また、実践的なものに裏打ちされた、科学的な研究も必要だ。更に、小学校の先生方に対する研修も必要。また、大学に対するプッシュも必要では。いろんな手を打って、ソロバンの灯を消さないようにしていただきたい。

3.トモエ算盤(株)社長 藤本トモエ氏

  先頃の永六輔さんとの対談で、「そろばんのイメージはくらい。もっと、ソロバンのピーアール」をといっていた。珠算の一番の魅力は、教育力。ソロバンを通して伝えるものは、実にたくさんあるが、珠算の勉強には時間がかかる。繰り返しの努力が、今の子供達にはかけている。珠算塾は、ひとつのものを達成させていくための貴重な空間である。そういうものを先生たちが自信をもって伝えていけばよい。
  一番大事なことは、指導法の確立ではないだろうか。珠算界は今まで、いかに短時間でよい効果を高めることができるのかという、科学的な指導法の研究を怠ってきた。もうひとつは、私は自分の名刺に"エバンジャリスト"と表示するようにしている。"そろばんエバンジャリスト"とは、そろばんの伝導師の意味だ。そろばんに対する熱い思いを、もっと、世の中に伝えていくべきだ。
  そろばんの良い面でもあり悪い面でもあることとしては、習熟に時間がかかること。とにかく、今の子供達は忙しい。週4回もソロバン塾に行かせるのは無理という父兄の声が圧倒的に多い。これから、珠算塾の数が減っていけば、ひとつの珠算塾がカバーする範囲はひろがる。そうなると、ますます珠算塾に週何回も通うのが難しくなる。インターネットを利用して塾での回数を補完する、"ディスタンス・スタディ"などの形態もう生まれてくるだろう。

4.(株)彩感社長 村田弘道氏

  世の中のハイテク化の流れの中で、ソロバン復権のために、何か大きな手を打たないと時代の片隅におかれてしまうような気がする。この時代の中で、そろばんをどう残すのかを具体的に考えなくてはならない。時間はどんどん流れていく。
  そろばんの方向性を考える参考として、MKタクシーの例をあげたい。MKタクシーは、広報費を使わないで、MK××というものをいろいろ作って世にアッピールしている。同社の青木社長は、どないしたら這いあがれるかということを朝から晩まで考え、そこから出てくるアイディアを実行していく。実行するか、しないかの違いだ。ソロバン業界も、断崖絶壁にたたされているのであれば、いろいろ考えて、思い切った新しい考え方によるアイディアを実行していかないと、時代の流れに対抗するのは難しい。
  学校は学級崩壊、親も子供もどうしたらよいかわからない状況の中で、塾という場が、大きな意味をもつようになってきた。塾はソロバンのテクニック教えるだけでなく、他のものとの組み合わせとか何かプラスアルファが期待される。

5.大阪珠算協会副会長 田村一夫氏

  今、珠算業界は右へいくか、左にいくか分水嶺にある。基本的には、自分の考え、自分の主張をはっきりもつことだ。珠算検定試験をどう思うかと聞かれれば、加減乗除、伝票があるが、社会のニーズにあっているかといえば疑問。伝統を守るというのは、同じ事を続けることとは違う。それではサル真似になってしまう。社会が求めるそろばんは何か。それに応える検定にしようということである。
  珠算の先生方の中には、選手指導に勢力を注ぐ人、ソロバンを通じて生徒の教育に力を注ぐ人、いろいろな考えの人がいる。今更、なぜ競技にこだわるんだという声もあるが、今、日本一を決める競技をなくすと、後の世に悔いを残す。頂点に立つのは、その年に一人だけ。日本一に向かって、どうして何百、何千という人達が競うのかと考えれば、その意味の大きさが理解できる。日商は、日本一を決める競技大会から手を引くべきではない。繰り返すが、ソロバンは競技万能であってはならないが、一方で、競技をなくしてもならない。
  そろばんは、明治、大正、昭和と、空気か水のような存在であった。ソロバンをするとしつけ、忍耐力がつくということで、最近は、そろばんの効用としてこういう点を余りにも前面に出しすぎている感がある。これは、何もそろばんでなければできない事ではない。大阪珠算協会が実施している外国人講座には、おおむね60カ国の人達が参加してきた。こうした方々にソロバンの感想を聞くと「素晴らし」という。何が素晴らしいかと聞くと、「暗算」だという。私達もソロバンを伝えていく中で、教え子達が良かったという評価をしたものを伝えていくことが大事。
  世論に対する説得の方法として、珠算習得の効能を整理したものがほしい。例えば、大学の先生等に研究論文を書いてもらうにしても、論文をかくための資料提供を、私達がしていかないといけない。今ひとつ肝心なことは、研究を重ねていただく集合の場、発表の場がおのずと必要となるということだ。


<第3部>総括



大阪珠算協会副会長
伴 睦美氏

  大阪珠算協会・伴副会長から今回の懇談会が次のように総括された。
「珠算人口の90%が小学生となっている中で、珠算の未来を、珠算教育の原点に立ち返って考えなければならない。また、職業教育としての珠算の役割が終わろうとしている今、珠算団体が一致協力し、エネルギーの分断を避け、力をあわせてやっていくことが大事。こうした中で、近い将来、今まで絶対ありえないと考えられていた珠算3団体の統一の可能性すら開けてくるのではないだろうか。」


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